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「リマからもっと近いロマス」へ行く

 冬季(7〜10月)限定の、リマ近郊のすてきな場所… 

ラチャイのロマス



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0.2003年のスナップ少々

<↑2003年10月 追加しました>

1.2002年のスナップ集

1'.(ご好評につき)追加の写真

2.ラチャイのロマスへの行き方

3.エッセイ(「ウィンズ」誌より)

4.リマからもっと近いロマスへの行き方

<↑2003年10月 訂正追記の上、別ページに独立させました>





↑けものめいた、かわいい姿のタラ。苔をまとって朽木のように見えますが、ちゃんとちらほら芽を吹いています。
日本の方とごいっしょすると、必ず、「タラだったら、芽はてんぷらにできるのか?」という話になるのですが(笑)、この「タラ」は、残念ながら日本のタラノキとは別の、マメ科のTARA(学名 Caesalpinia spinosa)です。日本の蘇芳や、ブラジルの国名のもととなったブラジルボクの親戚にあたるようです。
実に美白作用のある成分が含まれるとかで、日本の某有名化粧品メーカーでも、このタラを使った美白剤を出していたと思います。
またタラは、皮なめし剤の原料としても知られています

「ラチャイのロマス」は、リマ市内から車でわずか1時間半〜2時間のところにある、海霧に包まれた不思議な「沙漠の花園」です。ここを見つけてからは、それまではゆううつだったリマの冬を、早く来ないかなあと、楽しみに待つようになりました。
リマの排気ガスを逃れ、しっとりした緑で目を休めたり、新鮮な大気を楽しみたい方は、ぜひ冬のあいだに、ラチャイのロマスにいらしてみてください。

7、8月ごろから若緑が美しく、10月なかばくらいまで楽しめますが、例年、だいたい9月後半〜10月はじめが、緑、霧、花々のすべてが揃って、最高におすすめの時期です。


ペルー海岸部には雨が降らないため、沙漠地帯が広がっていますが、冬季にだけ、濃い海霧がもたらす湿り気のおかげで緑がいっせいに芽吹く場所があります。それを「ロマス」と呼びます。
この「ラチャイのロマス」は、とりわけ見事な植生をみることができる場所で、5,070ヘクタールにもわたる地域が、77年に国立保護区に指定されました。
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↑2002年10月はじめのラチャイ。
遠くの丘も、すべてオルティーガの花で黄に染まっているのがおわかりいただけるでしょうか? 去年はロマスの当たり年だったらしく、壮観でした。

日本では、その丸い袋のような形から「キンチャクソウ」と呼ばれ、
園芸品種が親しまれている calceolaria カルセオラリア。→
アンデスには原種が300もあるそうですが、これはそのうちのひとつ。

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←この印象的な白い花は、ベゴニアの原種のひとつだそうです(begonia octopetala)が、日本の栽培種のベゴニアとは、ずいぶん違っています。
だいたい9月後半くらいから咲き始め、どんどん長く茎を伸ばしていきます。霧の中から、こちらを背伸びして見ているみたいです。
残念ながら今年(2003年)は、長いコースを歩いても、数本しか見かけませんでした。
(2002年10月はじめに撮影)





→同じ保護区の中でも、場所によってだいぶ植生が違っています。これは公園内の高いところ。薄青の花がまるい群落をつくり、あちこちに咲き乱れて、まぶしいほどです。晴れた日には、ただの明るいハイキング道になってしまう場所ですが、霧の日にはほんとうに夢のようにきれいです。(2003年9月末撮影)







0.2003年のスナップ少々

今年(2003年)の冬は、リマでも快晴の日がよくあり、海霧だけに頼るロマスの緑は、今年はどんなかなと、気になっていました。
9月27日に行ってきましたが、やはり緑の繁りぐあいは、例年にくらべていまひとつのようでした。


 でもそのかわり、なかなか見かけにくいといわれているキツネ君に、再会することができました!
一昨年ラチャイで出あったときは、なんとも運悪く、フィルムを使いきってしまった直後でした。キツネのほうも、「あらせっかく出てあげたのに、あなた1枚も撮らないわけ?」と、不思議そうにふりかえりふりかえり藪に戻ってゆき、とても口惜しい思いをしましたが、今年はデジタルカメラを持っていたので、ばっちりでした。




←ついにキツネ君を激写!
ラチャイには、アンデスキツネと、海岸部のセチュラ・キツネ(ZORRO COSTEN~O、Pseudolopex sechurae)のニ種類がいるらしいのですが、どちらかはわかりません。












展望台で、お弁当を使って「キツネ釣り」をこころみている人たち。→
ほんとは餌をやってはいけないのですが、
ついやりたくなる気持ちはわかります……

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繊細でみずみずしいロマスの花々。
紫のレースのような模様にご注目。
しかもおしべは水色、非常にしゃれています。

<追記>この花の名前がわかりました。NOLANA(ノラーナ)、学名はNolana humifusa。ナスの近縁だそうで、70種あるノラーナのうちのほとんどが、南米太平洋岸の乾いた土地(ロマスもそこに入りますが)で自生しているそうです。日本で花壇などに使われている栽培種の「ノラナ」というのもあるようです。





















このふわふわした白い花は、今回はじめて見たような気が…↑
ひとつひとつは、小指の先よりもずっと小さな花です。
ラチャイには何度通っても、そのたびにかならずひとつは、新しい発見があります。



青い花びらの中心に、ひと刷毛(はけ)明るい紫が入っています。











 やや乾き気味とはいえ、ラチャイのロマスの入り口付近は、今年もこんなにみごとなお花畑となっています。ただしこのお花畑、ほとんどはオルティーガの黄色い花なので、うっかり中に入るとたいへんに痛い思いをします、ご注意を↓

この胸が赤い鳥は、ワンチャコ HUANCHACO(Sturnella bellicosa)というそうです。

リマの公園などでもおなじみの、赤いトゥルトゥピリン TURTUPILIN(Pyrocephalus rubinus、ベニタイランチョウ)にちょっと似ていますが、これはひとまわり大きな鳥です。
このほか、ヒメコンドル(Gallinazo)や鷹や、黒い羽根と白い首もとが尼僧服に似ているためサンタ・ロシータ(聖ロサ)と呼ばれるツバメなども、たくさんとびかっていました。










(以上のスナップは、すべて2003年9月末のものです)




1.2002年のスナップ集


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ラチャイのロマスへの行程のなかほど、チャンカイ付近は、霧が深いので有名なところです。
ふだんは写真手前のような、乾いた砂丘地帯なのですが、8,9月には、ここもみごとな花園に変わります。
海霧に包まれた丘の上のほうが、緑に染まっているのがおわかりいただけるでしょうか?
パンアメリカン道を通りながらの、へんなスナップですみません。










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チャンカイのロマスには、特にジャガイモ野生種が多いらしく、冬のあいだは、こんな紫色のお花畑に変わります。
夏のチャンカイ…沙漠そのもの!…だけを知っている人には、信じられない光景ではないかと思います。
土はしっとりした黒土のように見えますが、手にとって見ると、さらさらの砂で、またびっくり。





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←いよいよラチャイに到着。
まるで豊かな牧草地のように見えますが、ここも緑の下は、さらさらの砂地です。
霧の中で啼きかわす小鳥の声が、夢のように響きます。


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(写真右)→
ねじくれたタラ*の枝の上、緑の苔のあいだに、わずか2ミリほどの傘をひろげたキノコ。
かわいいキノコ見物には、8月がおすすめ。
9月には、ほかの緑の勢いに飲まれて、なのでしょうか、ほとんど見つからなくなってしまいます。

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(←写真左)
トウガラシの野生種の花(たぶん)。
ラチャイのロマスは、遺伝子資源の宝庫としても知られています。








(写真下↓) 
地面を覆うやわらかな緑は、なんだかとてもおいしそう。
いつもラチャイに行ったあとは、どうしても食べたくなって、大きなボールいっぱいのグリーンサラダを作ります。

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1’.追加の写真

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(←写真左)
8月ごろから咲きはじめ、10月にはロマスじゅうを明るい黄一色に染める、オルティーガ・ネグラ ortiga negraの花。
黒いイラクサ、の意味ですが、実際はロアサ loasa科に属する植物で、イラクサのようなトゲをたくさん持つことから、スペイン人がつけでもした呼び名なのでしょう。
どこが「黒い」のかは、よくわかりませんが… 
うっかりさわると、ぴりぴりっとした感触があり、あとしばらく痛みが消えませんので、ご注意を。


このオルティーガは、精巧な蝋細工のような美しい花です。
写真は、まだロマスの緑が若い8月に写したので、儚く初々しく見えますが、でもほんとうはとても強い植物です。
同じ花が何日も何日も咲きつづけ、どんどん丈が伸びてゆき、10月ごろには、あたりはちょっと憎らしいくらい立派に育ったオルティーガだらけになります。
沙漠のロマスでこんなに繁茂したのには、ちゃんとわけがあるようです。花びらの中に隠されたおしべが、時とともに下がってめしべに接触、虫がいなくても自分で受粉、確実にタネができるようになっているそうです。
オルティーガは、ラチャイ以外のロマスでも、よく見かけます。


同じロアサ科の植物、約250種のうちのほとんどが、アンデス山系にあるそうです。乾季にクスコの遺跡をめぐった方なら、石組みのかげによく咲いている、やはりトゲだらけの、きれいなオレンジ色の花をご覧になったかもしれません(下に写真があります)
http://e-ie.asahi.com/sumaiw/sumaiw0403.html
これもロアサ科の花ですが、やはりあっさりオルティーガ(イラクサ)、と呼ばれています。どうもヨーロッパ人の植物の呼び方は、単純で味がありませんよね…



<ロマスの季節のうつりかわり>

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←8月、まだ若緑一色の、みずみずしいロマス














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オルティーガの花に制覇された、9月の終りのロマス→













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←10月、そろそろロマスの季節もおしまいに。
丘の上の黄色は、一面のロアサ(オルティーガ)のお花畑(中に入ると痛そうです)。
少し下では、松葉ボタンの仲間だという多肉質の植物が、鮮やかなピンクの花を咲かせています。
そして、この写真を撮ったところから海のほうを振り返れば、ただ乾いた砂丘が波打っているだけです。













2.ラチャイのロマスへの行き方

正式名称: RESERVA NACIONAL  LOMAS DE LACHAY 国立保護区‘ロマス・デ・ラチャイ’
lachay10.jpg所在地:km105 de la Panamericana Norte(パンアメリカン道の、リマの北105キロ地点)

(←写真)ロマスに咲く、トマトの野生種(たぶん)の花。

リマ市内からパンアメリカン・ハイウェイにのり、一路北へ。
(なお、スルコ方面からだと、パンアメリカン道(北)に出るには、全リマ?を通りぬけなくてはならず、ちょっと厄介です。
何度か試した結果、
AV. LA MARINAを通って空港横を抜け、LA PAMPILLA(精油所のあるところ、夜通るとエントツの上に火がごうごうと燃えていて、ちょっと薄気味悪いですよね)→VENTANILLA→…
という行程が、いちばん効率的なようです。セントロ地区を経由すると、混雑に巻き込まれやすく、かえって時間がかかります。


チャンカイ周辺で完全な砂丘地帯に入り、特に冬季は霧も深く、ちょっと不安になりますが、そのまま進んでください。
105キロ地点で、右手にささやかな木の標識が現れますので(最近少し大きな標識もできました)、そこで右折します。
ガタガタ道をゆっくり10分ほど登ると、ラチャイ保護地区の入り口に到着。更に奥にある駐車場まで、車で進入できます。何箇所かに駐車場がありますが、案内の建物(CENTRO DE INTERPRETACION)の近くまでぐぐっと入ってしまったほうが、楽に歩けます。
入り口でくれる地図をご参照ください。


入場料:大人5ソル(2002年現在)
入場時間:朝8時〜夕方6時まで。これ以外の時間には、入り口が閉鎖されます
(と聞いていたので恐れていたのですが、先日、6時を過ぎてから大慌てで帰ったときには、ちゃんと開けてあってほっとしました。一応いつも誰かは番をしているそうです)
なお入場者は一日600人までに制限されているそうです。制限された経験は、私はありませんが。
ベストシーズン:毎年7月ごろ〜10月半ばごろまで 
ベストのベスト:8月後半〜9月 (ただ、10月になって乾いてくると、野生のキツネに出会える可能性は、高くなるようです。私も9月末と10月に、キツネに遭遇しました)


保護地区内には、水洗トイレ、キャンプ・バーベキュー用地があります(キャンプする際は、翌日再度入場料支払いのこと)。
飲料水、食品、薪などは、各自持参の必要があります。よく管理された保護地区なので、治安等の心配は、基本的にはありません。
なお保護地区内では、小動物たちを脅かさないため、車のクラクションやライト、ラジオ、楽器等の使用は禁止されています。
うるさい人(特に白人系のお子様がた!)には、厳しく注意してあげましょう。


<ピクニックのヒントいろいろ>

*現地は霧が深いため、帰路、ノドが痛くなっているのに気づくことがよくあります。暖かい身支度をし、気管の弱い方はマフラー等で武装なさることをお勧めします。歩くとすぐ暑くなりますが、油断は大敵です。ただし、晴れた日にはすごく暑くて、半袖でもじゅうぶんなくらいになりますが、ロマスの空はとても気まぐれなので、予測は不可能です。いろいろ持っていらしてください。
靴はあまり武装の必要はありませんが、天候によっては少しぬかるむので、水のしみないウォーキングシューズが最適です。パンプスなどは論外。


*保護区内には、20分から2時間くらいまでの各散策コースが設けられています。
リマ市内の出発地点にもよりますが、往復に4時間(トイレ・ストップこみ)、現地滞在に3時間くらいはみておかれるといいと思います。
もちろん日帰りでじゅうぶんです。


*お弁当は、やはりおむすびがいちばんです。

*チャンカイ保護区を出て、リマに戻る際、まちがって下りのパンアメリカン道を逆行しないように、お気をつけてください(笑)。
そんなことするのは、うちくらいかいな…
でも、リマ行きの上り車線は、小さな砂の堆積の向こうにあって、ラチャイの出口からはよく見えないので、車が走っていないとちょっとわかりにくいんです。
以前下り車線を堂々逆行したときは、向こうから来たトラックの人が大慌てで手を振ってくれるまで、気づきませんでした。
(その前におまわりさんに会わなくて、ほんとよかった… 
なお、チャンカイ辺では、いつもおまわりさんが待ち構えていて、ぞ〜っとさせられますが、霧で事故が起きないように見張ってるだけのことが多いようです。しかしくれぐれも身分証明書類は、運転手以外の方もお忘れなく!)


*トイレ・スポット
現地のトイレがよくありませんので(幸い私は入ったことがありませんが、利用した人は最悪だと言っていました)、手前にあるドライブインをご利用なさることをお勧めします。
特にいつも清潔で感じが良いのは、パンアメリカンハイウェイ北 77.5キロ地点のガソリンスタンド YPF にあるトイレと、そこに隣接したDELPINOというカフェテリアです。
CAFETERIA DELPINO
Panamericana Norte Km.77.5 - Chancay, Huaral 
ここのチチャロン(豚のから揚げ)chicharron de chancho はおいしそうなのですが、先日食べたときは、あとちょっと胃が重くなりました。心因性かもしれません。

[2002年9月30日追記]
9月下旬に再度試したときは、問題ありませんでした。けっこう上手なチチャロンと思います。サンドイッチにしたのもおいしいです。


*チャンカイの峠?越えには要注意。
道はたいへんいいのですが、霧がとても深いので、帰りがけは、暗くなる前にチャンカイを通ってしまうほうが安心です。
本当に、鼻先も見えないような深い霧に包まれてしまうことも、めずらしくありません(日中でもそういうことがあります)。
もし日暮れを過ぎてしまったときは、良いサーチライトを持ってる車を見つけて(土日なら大抵、ごつい四輪駆動車がぶいぶい飛ばしています)、そのあとにくっついていくとラクができます。つられて猛スピードになりますが……
またパンアメリカン道は、どこも照明が少なく、夜間は対向車のライトがまぶしく目が眩んだところを、そのへんの住民が平気で道をわたっていくので、助手席に座ってるだけでも、神経がぼろぼろになります。日中のほうが万事気楽です…


[2002年9月30日追記]
*チャンカイ周辺の道沿いでは、近くのHUANDO ワンド(地名)の果物農家が、果物スタンドを出しています。季節によっていろいろですが、おみかんなど香りがよくてとても甘いので、少し買っておくと、行きかえりのドライブの目覚ましにちょうどいいと思います。ただ大ハズレのこともあるので、必ず味見してから。また、果樹の苗も置いてあります。ブドウなど、一苗買っていき、あんどん仕立てにするとすてきです。





3.エッセイ 二点


(JAL機内誌「ウインズ」 2002年3月号より)
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3月。晩夏の強い陽射しのもと、リマ市街をぬけ一路北へ。じきに肉桂色の砂丘が波打つ沙漠にさしかかり、105キロ地点で小さな標識が現れる。
「国定自然保護区 ラチャイのロマスへようこそ」
しかし保護区の奥深く入っても、そこには枯れ木が点々と立つばかり。ほんの数ヶ月前には、私はまちがいなくこの場所で、みずみずしく霧に湿った神秘的な沙漠の花園を見たのだが。


ペルーの海岸沙漠は、一年を通し雨は降らないものの、冬のあいだは濃い海霧に包まれる。標高数百メートルほどある砂丘では、その霧が地表すれすれまでたれこめて、多くの種子が眠る砂地を潤し、やがて沙漠のただなかに忽然と花園を出現させる。これが世界にも類を見ない、冬だけの沙漠のオアシス、「ロマス」である。

寒さがきわまる8月、不思議なことにロマスはいよいよ豊かな緑に覆われる。喉をちくちく刺す冷たい霧のヴェールを透かし、砂丘をうめて咲き乱れるピンクや白、青や黄、あるいは紫の野の花が、美しい夢のようにじんわりと浮かび上がる。リマから遠く旅して深山に分け入った錯覚に陥るが、ここから十分も車で下れば、あの乾いた砂丘へすぐ戻る。一年中カラカラの沙漠と、緑のロマスの運命を分けたのは、わずかな標高の違いだけなのだ。

インカやプレインカの人々は、ロマスのこれほど微妙な均衡を傷つけず、上手に活用するすべを心得ていた。しかし侵略者スペイン人とその家畜が、この奇跡のような土地を痛めつけ、かつてはペルー海岸に無数にあったロマスも、今はここラチャイだけが唯一国によって保護されている。

10月末、初夏の太陽が霧をかき消すと、砂丘に浅い根を張るロマスの緑は急速に潤いを失いはじめる。イラクサの黄の花も、トマトやタバコ野生種の可憐な小花も、たちまち乾いて砕け散り、あたりはもとの荒地に還る。こうしてわずか百数十日で、細かな薄茶の埃に変わる沙漠の花園は、すべての命が本来持つ強さと儚さとを、あまりにも鮮やかな対比をもって描き出す。

今、夏の終りの3月、再びロマスの甦りの季節が近づいている。100キロ離れたリマ市でも、街灯のオレンジ色を夜ごとにじませる海霧が、日に日に白く深くなってゆく。この霧は、今夜はラチャイのロマスにも、きっとじわじわ寄せているだろう。そして霧に湿った地中の種子は、か弱い若芽を砂地にもたげる時を、もう待ちかねていることだろう。都会の霧の匂いをかぎながら、ロマスにまもなく目覚めるおびただしい命のことが、遠くいとしく思われる。W(飯尾響子/ライター)


(むかし管理人が出していたメールマガジン、「ペルー‘生活実感’情報」 11月号(2000年11月9日号)より)

<ロマスのの消える月>

リマ市からパンアメリカン・ハイウェイに入り、北に向かって走ってゆくと、じきに沙漠にさしかかります。
茶色がかったやわらかな砂色の、乾ききった風景です。
アンデスからの川が流れる谷間では、そこだけ畑の緑が鮮やかで、今ごろならちょうどマリーゴールド畑の橙色がまぶしいほど。
けれど谷を過ぎればすぐまた、うねうね果てしなく続く海岸沙漠です。


リマ市内から約一時間半。目的地の105キロメートル地点にさしかかっても、やはり砂丘の真っただなかです。
なめらかなパンアメリカン・ハイウェイをそこで降りて、霧に霞む海に背を向け、右折します。
砂利が敷かれた坂道を、車でゆっくり登ってゆきます。ごく緩やかな坂ですが、これでもずうっと先では、アンデス山脈へとつながってゆく傾斜です。
がたがた道に気を取られているうちに、いつのまにか周囲の沙漠のシナモン色の砂は、緑の小さな芽吹きに覆われています。
空気の中に、緑の香りが漂いはじめます。
そして更にもう少し坂を登ると、そこには忽然と、深い緑と白い霧に包まれた幻想的な光景が現れます。


ここは、「ラチャイのロマス」という、リマ近郊のとっておきの場所です。
ペルーの海辺では、一年を通して、決して雨が降ることはありません。川のある谷間のほかは、いつもからからに乾いた沙漠です。
けれど六月から十月までのあいだ、この地方は毎日、海から押し寄せる深い霧にすっぽり包まれます。
とりわけ朝夕は、霧は地上すれすれまでたれこめ、そのわずかな水滴が、乾いた地面に眠る無数の種子を目覚めさせ、いっせいに芽吹かせます。
七月ともなれば、「ラチャイのロマス」は、もうすっかり若緑ひと色に染まっています。


まわりが緑に変わるのを待ちかねて、茶褐色のビスカチャの一族が穴から顔を出し、新鮮な食べ物を探し始めます。
ビスカチャは、うさぎとねずみ、それにリスのかわいいところを集めたような、アンデスの小動物です。
きっと先祖代々、この緑の季節を熟知しているに違いない渡り鳥も、ざっと五十種ほども集まってきます。
小動物を狙うアンデスギツネも、隠れ家からのっそり姿を現します。


この緑豊かな季節を、ここではおかしなことに「冬」と呼びます。しかもより寒い冬ほど、緑はより濃く茂るのです。
九月、十月ごろには、そこらじゅうに伸びたイラクサが花を咲かせ、あたりは山吹色に染まります。
雨季の高地にいるのかと、一瞬錯覚してしまうほど、それはみずみずしい色彩です。
ほんとうはたった数十分、車で引き返しさえすれば、あの乾ききった海岸沙漠に戻ってしまうのですが。


ペルーにしかない、この真冬の沙漠の不思議な緑地を、「ロマス lomas」といいます。
一年のうちたった数ヶ月、それも雨とも呼べない海霧にしか恵まれないロマスに、数百種を数える植物がみごとに順応しています。
アンデス原産のジャガイモやトマト、タバコの野生種も、今なお生き残るロマスは、遺伝子資源の宝庫でもあります。
周期的に起きるエル・ニーニョ現象の年には、冬の寒さも海霧もやってきません。
ごく微妙な気候のおかげで芽吹くロマスは、枯れ草色のままその年をやりすごすことになります。
けれど、植物の根や種は、そのために枯れてしまうことはありません。
次の寒い冬を待ち、必ず再び芽を吹きます。この程度の自然のリズムの乱れは、ロマスの住人にはもう慣れっこなのでしょう。


インカや、あるいはプレインカの時代の人々は、ロマスを傷つけず、上手に利用することを知っていました。
そのころのロマスでは、野性のラクダ科動物グアナコが若草を食み、可憐な灰色シカが跳ねまわり、岩陰にはピューマがひそんでいました。
人々もまた、篭を編む材料を集めたり、薬草を探したり、家畜のリャマを放牧するため、この季節になるとロマスを頻繁に訪れました。
ちょうど高地は乾季のなかば。ロマスの柔らかな若草は、リャマにとってたいへんなごちそうでした。
リャマは、草を根こそぎにしないで上手に食べるので、この放牧がロマスを痛めつけることもありませんでした。
当時のロマスは、ペルー海岸部のどこにでもある、冬だけのオアシスでした。


しかし、やがてやってきたスペイン人たちが、この奇跡のような土地を踏みにじってしまいました。
彼らがアメリカ大陸に持ち込んだヤギや羊は、貴重なロマスの緑を根こぎにし、小動物の棲む穴を踏み潰し、スペイン人が暖をとる薪のため木々も乱伐され、あっというまに、無数のロマスがただの沙漠に変わりました。
そして今、わずかに唯一、国によって保護されているのが、リマからもほど近いこの「ラチャイのロマス」です。


今年さいごのロマスの季節、先月終りに訪れたときには、まだかろうじて、ひんやりした海霧が丘の上に漂っていました。
緑はすでに輝きを失い、くすんでいましたが、まだ黄色やピンクの小花は残っていました。
魔女の鉤爪のような、不気味にねじくれた枝をもつタラ tara の老木は、苔を幹にたっぷりまきつけ、霧の中にぼうっと黒い影を浮かび上がらせていました。
人を恐れぬ山鳩は、優しい声でほうほうとなき、木立のいちばん高いところからは、鋭い瞳の鷹がじっと地上をみつめていました。
そしてリマ市からきた都会人たちも、声をひそめて散策していました。


十一月の今、ロマスを潤す海霧は、日に日に薄くなってゆきます。
照りつける夏の太陽に、先月には残っていたわずかな緑も、あっというまに褐色に変わることでしょう。
けれど、枯れた薮の根もとのあたりでは、ビスカチャや野ネズミ、さまざまな小動物が、地中の種や球根を齧りながら、来年きっとまた訪れる新鮮なサラダの季節を、静かにじっと待ち焦がれています。


「リマからもっと近いロマス」へ行く


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